公益財団法人 えどがわ環境財団

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自然動物園SHIZEN ZOO

2026年09月の自然動物園ぶろぐ

祝1歳!ミラクルにおきた奇跡~後編~

「祝1歳!ミラクルにおきた奇跡~前編~」では、双子で生まれ、母親に育ててもらえなかったミラクルが、祖母ナミの育児によって成長した経緯をお伝えしました。

 

読んでくださった方のなかには、「母親が育てなかったのなら、飼育員が育てれば、2頭とも助かったのではないか?」と考えた方もいらっしゃるでしょう。

 

後編では、この点にも触れながら、もう少し掘り下げたお話をしたいと思います。


◆人工哺育の難しさ

 

動物の親に代わって人が赤ちゃんを育てることを、人工哺育と言います。

 

ミーナが育児をしなくなった時、私たちは、双子を人工哺育するかどうかについて、話し合いました。

  

サル類の人工哺育は、ミルクをはじめ、排泄の世話まで育児そのものが簡単ではありません。

 

そして、一番の困難は、なんといっても成長後の群れ入りです。

 

サル類は、赤ちゃんの頃から仲間たちと関わりながら、コミュニケーション方法や行動を学び、群れに受け入れられます。

 

人工哺育で育った個体は、母親や仲間たちから教育を受けることができないため、群れになじめず、攻撃されてしまうことも少なくありません。

 

また、サル類の社会構造はとても複雑なので、そうした個体が1頭でもいると、群れ全体になんらかの悪影響が出てしまう可能性もあります。

 

「それなら、群れ入りさせずに個別で飼育すれば良いのではないか?」と思う方もいるでしょう。

 

しかし、サル類というのは、仲間同士で鳴き交わしたり、毛づくろいをしたり、ハグをしたりといった様々なコミュニケーションを取りながら生きる動物です。

 

私たちは、将来的な群れ入りの難しさを視野に入れ、双子が放置されるようなことがあれば、その時にまた協議することを前提に、ナミやモミジが育児を続ける限りはサルたちに任せようと決めました。

 

写真:群れの中で過ごすミラクル(写真中央で歯を見せている個体) 


◆ナミから母乳が出るようになった理由

 

話が少し戻りますが、ミラクルを産んでいないナミから安定的に母乳が出るようになったというのは、大変不思議なことです。

 

なぜなら、普通は出産していない個体は母乳を出すことはできないからです。 

 

研究者の先生に聞いたところ、過去に授乳をしたことのある動物であれば、乳首を吸い続けると、また母乳が出るようになる可能性があるとのことでした。

 

これを授乳再開と言うそうです。

 

しかし、実際には、サル類での授乳再開の報告はほとんどないとのことで、ナミから母乳が出てミラクルが育っているのは非常に珍しい事例だと驚かれました。

 

写真:ナミにくっつくミラクル


◆モミジの協力は動物園ならではの出来事だった

 

モミジが双子の赤ちゃんに母乳を与えてくれたことも、研究者の先生によれば珍しいことだそうです。

 

サル類では、母親以外の雌が育児を手伝う種もいますが、娘など血縁関係の濃い個体を手伝うのが一般的です。

 

ブラウンケナガクモザルは、成長した雌が群れを離れ、雄が群れに残る「父系」社会です。

 

そして、野生の場合は群れの中で雌同士の血縁は薄いです。

 

そのため、野生では母親以外の個体が育児を手伝うことは少なく、ましてや母乳を与えるというのは非常に稀だそうです。

 

モミジが双子の育児に協力した背景には、動物園という狭い空間で、血縁の近い雌が物理的に密集して暮らしていたことが関係しているのかもしれないというのが研究者の先生の見解でした。

 

写真:赤ちゃん(双子のどちらかは不明)を抱くモミジ


◆ミラクルを通じて知った生命の不思議

 

ブラウンケナガクモザルの赤ちゃんは、生後半年くらいまでは母親にべったりですが、徐々に母親から離れて行動するようになります。

 

ミラクルも1歳になり、ほとんどの時間をナミから離れて過ごしています。

 

今回、ミラクルを救った大きな要因がナミの奇跡的な授乳でした。

 

しかし、そこには亡くなった双子のもう1頭の赤ちゃんが深く関わっていたことも忘れられません。

 

ナミはよく2頭とも抱いていましたので、ミラクルだけでなく、亡くなったもう1頭も必死に乳首を吸っていたに違いありません。

 

母親のミーナが育児をしなくなった本当の理由はわかりませんが、双子だったというのは大きな要因でしょう。

 

しかし、2頭が必死に吸ったからこそ、ナミの授乳再開につながり、ミラクルは生き延びた可能性があります。

 

また、動物園という制限のある環境のなかで、私たちは常に動物達のために試行錯誤しています。

 

今回、モミジが双子の育児に協力してくれたことが、動物園ならではのことであるなら、私たちの日々の努力が報われた思いもあります。

 

今日もブラウンケナガクモザルの展示場では、ミラクルをはじめ、同世代の子ザルたちが元気に遊んでいて、いつまで眺めていても飽きません。

 

日中はまだ暑さが厳しいですが、良い時間帯を選んで、是非ブラウンケナガクモザルたちに会いにお越しください。

 

写真:元気に遊ぶミラクル

 


2026年09月18日

祝1歳!ミラクルにおきた奇跡~前編~

まだまだ暑い日が続きますね。

 

ブラウンケナガクモザルも、日中は日陰でのんびり過ごしていますが、子ザルたちだけは「じっとはしていられない!」とでも言わんばかりに活発に遊んでいます。

 

7月5日に1歳を迎えた雄のミラクルも遊びたいさかりの1頭です。

 

しかし、昨年の夏は命が危ぶまれ、1年後にこれほど元気な姿を見られるとは思ってもいませんでした。

 

ミラクルの命が今ここにある背景には、いくつもの奇跡が重なっています。

 

今回は、ブラウンケナガクモザルのミラクルを通して私たちが目の当たりにした生命の不思議について、前半と後半に分けてご紹介します。

 

写真:ブラウンケナガクモザルのミラクル(2026年4月撮影)


 ◆クモザルでは稀な双子での出生

 

2025年7月5日に、ミラクルは当園初の双子で生まれました。

 

クモザルの双子は非常に珍しく、国内での報告例は数例で、海外を含めても稀です。

 

母親のミーナは子育てのベテランではありますが、同時に2頭の赤ちゃんを育てる事態には戸惑ったようでした。

 

自分では1頭しか世話をせず、もう1頭の赤ちゃんは自身の母親のナミや、3頭の子を育ててきたモミジに任せていました。

 

ナミやモミジの協力を得て、数日間はミーナも育児に奮闘しましたが、出産のダメージからか、徐々に赤ちゃんたちへの関心は薄れていきました。

 

出産から4日後の7月9日以降、ミーナが赤ちゃんの世話をする様子は見られなくなりました。 

 

写真:ミーナに代わり双子を抱くナミ


 ◆生き残ったミラクル

 

母親が面倒をみなければ赤ちゃんたちは生きていけません。

 

ミーナが子育てをしなくなった時点で危機に陥った双子の命ですが、ナミとモミジが世話を続けました。

 

特に、ナミは献身的でしたが、私たちの心境は複雑でした。

 

なぜなら、ナミからは母乳が出ず、ナミにお世話をされても赤ちゃんたちが生きられる可能性が低いからです。

 

一方、このときモミジは子育て中で母乳が出ていたため、そのままモミジの養子として育ててもらえることを期待しました。

 

しかし、ミーナが赤ちゃんたちの世話をしなくなって4日後の7月13日の朝、1頭の赤ちゃんが亡くなりました。

 

ナミは亡骸を長い時間手放そうとせず、私たちはナミが諦めるまで好きなようにさせていました。

 

この時に生き残った方の赤ちゃんがミラクルです。

 

写真:2頭の赤ちゃんを抱くナミ。1頭の赤ちゃんにはすでに力がない。


◆夏の暑さのなか、ミラクルに迫る命の危機

 

私たちの願いは、生き残ったミラクルがモミジに養子として受け入れられることでした。

 

しかし、ナミのミラクルへの思いは強く、モミジに渡すことはありませんでした。

 

ミラクルは、自分を大切に抱えるナミの乳首を吸っていましたが、ナミからは母乳が出ないので、日に日に衰弱していきます。

 

昨年の7月は本当に暑い日が続き、見た目にもミラクルの身体が脱水でしぼんでいるのがわかるほどでした。

 

クモザルの赤ちゃんは、生まれてすぐでも、しっかりと四肢と尻尾で母親の体にしがみつくため、まるで母親と一体化しているように見えます。

 

しかし、ミラクルの尻尾はだらりと垂れ下がり、手や足や頭がナミから離れてしまっていました。

 

今にも落っこちそうな姿を私たちはハラハラと見守るしかありませんでした。 

 

写真:衰弱して落ちそうなミラクル


◆ミラクルを救ったナミの驚くべき行動

 

 もしも、ナミから全く母乳が出ていなければ、ミラクルは数日で力尽きるでしょう。

 

しかし、生きているということは、十分ではないにしても、ナミから母乳が出ているのでしょうか?

 

そんな疑問を抱えて見守る日々のなか、私たちは思わず目を疑う光景を目にしました。

 

ナミがミラクルを抱いたまま、モート(水堀)へ入ったのです。

 

ブラウンケナガクモザルは、モートに入ることはほとんどありません。

 

どうしても取りたいものがある時などは、一瞬だけ入ることもありますが、目的を達成したらすぐに上がります。

 

しかし、ナミはミラクルを抱いたまま1日に何回も水に入り、その日以降も毎日のようにミラクルを抱いて水に入るようになりました。

 

真相はわかりませんが、私たちはミラクルの脱水を察知したナミが、暑さから守るためにこうした行動をとったのではないかと考えました。

 

写真:ミラクルを水で冷やしているような様子のナミ


 ◆奇跡的にナミから母乳が出はじめた

 

 8月になると、ミラクルは少しずつ元気を取り戻していきました。

 

力なく垂れ下がっていた尾もしっかりナミにつかまるようになり、目を開けて周囲を見回すようになりました。

 

その目つきが意外にも力強く、ミラクルの命を半ば諦めていた私は、はっとさせられたことを覚えています。

 

にわかには信じられませんでしたが、状況から考えると、ナミから母乳が出はじめたのでしょう。

 

秋から冬にかけて、ミラクルには歯が生え、体の色が変わり、活発に動き回り、野菜などを食べるようになりました。

 

気づくと、私たちはミラクルの命を心配することはなくなっていました。

 

そして、職員の間で冗談のように呼んでいたミラクルという愛称を、そのまま正式な名前にすることを決めたのです。

 

写真:ナミから授乳を受けるミラクル


後編につづきます。

 

写真:冬になり、成長して自分で餌を食べるミラクル


2026年09月17日

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